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デザイン保護は 人と文化のバロメータ

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Q&A

新しいデザインの商品を開発しました。大量生産される実用品のデザインは意匠法で保護されると理解していますが、著作権法によっても保護されることはあるのでしょうか?
1.はじめに
 著作権法は、2条1項1号で、「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定し、さらに2条2項において「『美術の著作物』には美術工芸品を含む」としていますので、実用品のデザインが、著作権法によって保護されるかどうかは、それが、「美術の著作物」に該当するかによることになります。
 「美術」には、専ら美的鑑賞の対象となる「純粋美術」と実用性のある量産品に施される「応用美術」があり、「応用美術」のうち、実用的な目的で制作されるものであって美的鑑賞の対象にもなる一品制作的な美術作品は「美術工芸品」と呼ばれます。
 絵画・彫刻等の純粋美術や、壺などの「美術工芸品」は、法文上著作権法によって保護されることは明らかですが、美術工芸品以外の応用美術については法文上保護されるのかどうか明らかでなく、種々の裁判でその点が争われてきました。

2.応用美術品の著作物性
(1)従来の考え方
 応用美術品の著作物性が争われた判決には、仏壇彫刻事件(神戸地裁姫路支部 昭和49 年(ワ)第291 号)、T シャツ事件(東京地裁 昭和51 年(ワ)第10039 号)、木目化粧紙事件(東京高裁 平成2年(ネ)第2733 号)、ファービー人形事件(仙台高裁 平成12 年(う)第63 号)等がありますが、例えば、@「博多人形」事件(長崎地裁佐世保支部 昭和47年(ヨ)第53号)[図1]では、「美術的作品が、量産されて産業上利用されることを目的として制作され、現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない」とし、著作物性が認められました。
一方、A「ニーチェア」事件(大阪高裁 平成元年(ネ)第2249 号)[図2]では、「美術工芸品とは、実用性はあるものの、その実用面及び機能面を離れて、それ自体として、完結した美術作品として専ら美的鑑賞の対象とされるものをいうと解すべきであ」り、「右椅子のデザインが、実用を兼ねた美的創作物として意匠法等工業所有権法による保護を受けることは別格として、それ自体が実用面及び機能面を離れて完結した美術作品として専ら美的鑑賞の対象とされるものとはいえない」と判示され、著作物性は否定されています。
従来の判決では、純粋美術と同視し得る程度に美的鑑賞の対象になるか、あるいは、一品制作の美術工芸品に該当するか等を判断の基準としており、応用美術に著作物性が認められるためには高いハードルが設けられていたといえます。

(2)TRIPP TRAPP 事件
 上記のような従来の考え方とは異なる基準を示したのが、TRIPPTRAPP 事件です(知財高裁 平成26 年(ネ)第10063 号)[図3]。
 この事件では、「著作権法が、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的と」していること(同法1条)に鑑みると、表現物につき、実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって、直ちに著作物性を一律に否定することは、相当ではない。同法2条2項は、「美術の著作物」の例示規定にすぎず、例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても、同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、「美術の著作物」として、同法上保護されるものと解すべきである。」
 「著作物性の要件についてみると、ある表現物が「著作物」として著作権法上の保護を受けるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号)、「創作的に表現したもの」といえるためには、当該表現が、厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの、作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない」 と判示し、椅子の著作物性を認めました。
(3) TRIPP TRAPP 事件以後の判決 
 TRIPP TRAPP 事件は、応用美術に著作物性が認められる基準として、思想又は感情を創作的に表現したものであること、作成者のなんらかの個性が発揮されたものであることを挙げ、従来と異なる基準が示されたため、応用美術に広く著作物性が認められるようになるのか注目されましたが、TRIPP TRAPP 事件以後の判決をみてみると、例えば、@幼児用箸事件(知財高裁 平成28 年(ネ)第10059号)[図4]は、「控訴人が主張する前記@Aの点は、いずれも実用的観点から選択された構成ないし表現にすぎず、総合的に見ても何ら美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えるものではない。」と判示し、箸について美術の著作物としての著作物性を否定しました。
 また、A加湿器事件(知財高裁 平成28年(ネ)第10018号)[図5]では、TRIPP TRAPP 事件と同じ一般論を展開し、それを前提として、控訴人加湿器は、「アイディアをそのまま具現したものにすぎない」、また、控訴人加湿器の具体的形状は、「通常の試験管が有する形態を模したものであって、従前から知られていた試験管同様に、ありふれた形態であり、上記長さと太さの具体的比率も、既存の試験管の中からの適宜の選択にすぎないのであって、個性が発揮されたものとはいえない」として、加湿器の著作物性が否定されていますので、応用美術品に著作物性が広く認められるようになったとまでは言えないように思われます。

3.おわりに
 以上のように、実用品のデザインは、場合によっては著作物性が認められ、著作権法で保護され得ます。しかしながら、応用美術に関する従来からの考え方によっても、TRIPP TRAPP 事件で示された判断基準によっても、著作権法による保護を受けるためのハードルは高いといえますので、意匠法による保護を受けることを原則にしてはどうかと思います。

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