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Q&A

意匠の類否判断の主体について、平成18年の改正において、意匠法24 条2項に「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されましたが、その法改正後の意匠権侵害等の訴訟において、需要者とは具体的にはどのような者とされているのでしょうか。
 類否判断の主体がそのように規定された趣旨について、特許庁は「意匠の類否判断は、意匠制度の根幹に係る意匠の登録要件や意匠権の効力範囲を司るものであることから、統一性をもって判断されることが望ましく、したがって、意匠の類否判断について明確化するために、意匠の類似について、最高裁判例等において説示されている取引者、需要者からみた意匠の美感の類否であることを規定する(平成18 年意匠法等の一部改正「産業財産権法の解説」特許庁総務部総務課、制度改正審議室編)」と述べています。
 ところで、特許庁における意匠権という権利形成の判断においては、意匠登録出願された意匠について、その出願前の公知意匠を調査して、創作された意匠の形態的価値を評価し、その登録の可否を判断しますので、審査および審判の審理は出願された意匠の中に、先行公知意匠と同一もしくは類似しない形態、すなわち、新たな創作(意匠的特徴)を見出すことに重点が置かれます。
 してみると、一般の需要者がそういう意匠の創作の評価の主体となるのは困難ですので、権利形成の判断における類否判断の主体は、その意匠に係る物品の分野に属する設計者、デザイナー、製造業者等が、類否判断の主体となるのが合理的です。もちろん、設計者やデザイナーは、その製品の開発過程において、需要者の使い勝手や需要者がその製品のどこに注意を惹かれるか等を考慮して意匠の創作をするということは当然のことです。
 したがって、意匠の審査・審判における類否判断の主体は、需要者・取引者を含めた意匠を観察する全ての者が想定されますので、これらをまとめて「看者」としています。
 これに対して、意匠権侵害事件の場合は、本件意匠権に係る意匠(本件意匠)と市場で販売されている被告意匠(イ号意匠)とが、その製品の流通過程において、その両意匠に混同が生じるおそれがあるか否かによって類否判断がなされますので、その判断は、類否判断の主体の特定、また、その製品が、需要者にどのように観察されるか(観察方法)が重要な判断基準となります。
 なお、意匠法24 条2項に、「取引者」は規定されてはいませんが、取引者というのは、自らが需要者になるのではない中間的な業者であり、需要者は、最終的な需要者となります。
 ここで、類否判断の主体に関する近年の意匠権侵害事件の判決を概観しますと、「ロッカー用ダイヤル錠付き把手事件」(平成26 年(ワ)第11557 号、大阪地裁平成27 年10月26 日判決)[図1]において、「その需要者は、ロッカーを購入して設置する者(取引者)であるが、設置者は使用者(需要者)の使いやすさ等を勘案してロッカーを選択するものであるし、設置者の中には自らロッカーを使用する者も相当程度存すると考えられるから、使用者の立場に立って観察すべきものである。」と判示されており、取引者(設置者)と需要者(使用者)のいずれもが類否判断の主体とされており、需要者(使用者)の視点が重視されて、主としてダイヤル部の差異により、両意匠は類似しないとの判断に帰結しています。
 次に、「歯科用インプラント事件」(平成25 年(ワ)第6920 号、東京地裁平成26年5月29日判決)[図2]においては、「歯科用インプラントの性質、目的、用途、機能及び使用態様に公知の意匠の構成を併せ考慮すれば、本件意匠のうち看者である需要者(歯科医師)の注意を最も惹きやすいのは」と判示されており、需要者として専門的知識を有する「歯科医師」が類否判断の主体とされています。判決は続けて「看者である需要者(歯科医師)の注意を最も惹きやすいのは、被覆部において、ほぼ一様な円柱状の側面上に、底部付近から支台部との境界付近までネジ部が形成され、・・・、これらが本件意匠の要部であると」判断して、需要者(歯科医師)が関心を寄せるネジ部の差異によって、非類似の意匠と判断されています。
 また、「タイルカーペット事件」(平成22 年(ワ)第805 号、大阪地裁平成24 年3月15日判決)[図3]においては、「タイルカーペットは、室内装飾のために床面に敷いて使用されるものであり、需要者の好みや希望するイメージによってデザインが選択されるインテリア用品である。そのため、取引においても、様々なデザインの商品を数多く見比べて比較検討できるように、カタログ等で、実物の小片(サンプル)や写真・画像が示されるなど、模様、質感、色目等の違いが強調されている。」と判示し、タイルカーペットの場合は、タイルカーペットの施工業者というより、一般的な需要者が類否判断の主体とされ、タイルカーペットを組み合わせて敷いたときの類似性も考慮されて両意匠は類似すると判断されています。 これに対して「ブロックマット事件」(平成18 年(ワ)第7014 号、大阪地裁平成18 年12 月21 日判決)[図4]においては、「ブロックマットを見る需要者は、護岸、法面工事等の工事業者といった専門的知識を有する者であるところ、・・・そして、需要者はカタログを見て商品の選定をするものであるが、さらに具体的に観察するために現物を見た上で購入することもあると推認される。」と判示し、ブロックマットを敷き詰めたときの景観より、流通過程における現物での対比を重視して、非類似の意匠と判断されています。このように、意匠の類否判断、特に、意匠権侵害の判断においては、類否判断の主体の特定およびその観察方法により、両意匠の類否が決します。

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